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【SUZUKI GSX-R1000R】濁さず飛び立つ

  • 中古バイクカタログ
  • 2023.06.15

今回は「SUZUKI GSX-R1000R」を紹介します!

最後まで最高だった・GSX-R1000R

2017年に今のカタチになった、スズキスポーツバイク名門GSX-Rの1000。モトGP撤退と共にこのGSX-Rもスズキラインナップから外れることが発表されたが、改めて乗ったら最後まで説得力を持ったバイクだった。

 

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  • GSX-Rイズム

 2017年にこの形へとモデルチェンジした時の話である。あるサーキットでプレス向け試乗会が行われ出向いたのだが、実は前の週に同じコースで他メーカーの同系列スーパースポーツモデルの試乗会があったばかり。そのバイクを自分の思い通りには走らせることができず、1000cc/200馬力のバイクを走らせるにはこのコースではちょっと狭いか? と実感したばかりだった。

 

 GSX-R1000Rも、メーカーは違えど似たような構成。前向きな印象を得られなかったらどうしよう、という心配があったわけだが、それはすぐになくなった。ちょっと小さ目のこのコースでも、すぐに手足のように操れ、先週とは全く違った印象だったのだ。

 

「なぜだろう」と思いながらどんどんペースを上げていくうちに、開発テストライダーが「元気に走ってるね」といっしょに走ってくれることになった。そりゃいいトコロを見せたいわけで、ますますペースをアップ。ついにリアが大きく流れてあわや転倒!というところまで行ってしまったが、「あわや」で済んだのもGSX-R1000Rならではの気がした。ライダーの限界に近いハイペースでも包容力があったのだ。

 

 しなやかな車体、長いスイングアーム、低回転域からよどみないトルクを発するエンジン、といった要素がこの好バランスを生んでいるのだろう。1000ccの最高峰モデルだと、他のバイクとは切り離して考えなければいけないような超絶高性能であり、身構えて接しなければいけないことが多いが、GSX-R1000Rにはそれがないのだ。より排気量の少ないスポーツバイク、もしくはよりスポーツマインドが控えめのバイクの延長線上にあって、スーパースポーツだからと言って切り離して考えることはないのが、他メーカーのライバル達との一番の相違点だと感じる。

 

 GSX-R1000は初期型(2001年)からトルクフルで万能だった(2017年モデルからGSX-R1000Rとなる)。ゆえに、サーキットでも高い評価を受けて数々の栄冠も手にしたが、公道での魅力もいつも高かった。そのGSX-Rイズムは最終型まで受け継がれ、サーキットでもちろん高い能力を持ちながら、公道ライダーにもその魅力を発し続けてくれた。

 

  • 本気を出すことなどありえない

 今回の試乗は高速道路、ワインディングを含めたツーリング想定。コンパクトなコクピットに潜り込んで走り出す。コンパクトとは言え、ハンドルは低いもののそのハンドルが手前に引かれていて腰の位置とそう遠くないため、上半身が伸び切ってしまうという感覚はなく、前傾姿勢というよりは猫背姿勢といった雰囲気。クラウチングだからこそ、身体のバネが使える感じがして、最初から「スポーツ」を意識させてくれた。

 

 スーパースポーツとしてはロングストローク傾向で低回転域のトルクを重視したエンジンではあるものの、勇ましめの排気音やライダーに伝わる硬質な微振動に包まれると、ハヤブサのような包容力よりもあくまでパフォーマンスを第一に考えたモデルだと実感する。「とにかく速い」んだろうな、と走り出す前から肝に銘じるのだ。

 

 すぐに高速道路に乗り、感覚を速さに慣れさせていく。回転数を上げなくともどんどん速度が乗るのは、GSX-Rブランドらしいトルクフルなパワーはもちろんのこと、軽量な車体のおかげも大きいだろう。各ギアでスイッ!スイッ!と速度計が跳ね上がる。内燃機関らしい厚いトルクに乗って進むというよりは、どこか電動モーターかのような「スイッと感」なのだ。「公道で出しえる速度域など全く苦にしません」と宣言されているようで、本気の10歩手前ぐらいですでにあらゆる他の交通を凌駕している感覚だ。

 

 サーキット試乗ではもちろん高回転域も遠慮なく使ったし、その高回転域を筆者レベルのライダーでもしっかりと使おうという気にさせてくれる包容力に脱帽するが、公道ではなかなかその領域に立ち入ることはない。試乗中、ちょっと元気な4輪スポーツカーに遭遇し、ペースアップしてみたが、シフトダウンすら不要でスゥッとついていけてしまう。その「鼻歌感」とでも言おうか、格闘技で言えば完全に何階級も違う戦いをしているかのようで、余裕にもホドがある。おっとと、こんな速度が出ていた……とならないよう、しっかりと速度計を見ていなければいけないほど本当に鼻歌気分でいくらでも速度が出てしまうのだ。

 

 

軽さゆえに求められるスポーツマンライダー

 とにかく速いのは間違いないが、同時に軽いゆえ、もしくは高荷重も想定したサスのセットアップによってか、速度が上がってくると路面の継ぎ目ではリアが跳ねたりするような感覚もある。特にこの日はハヤブサと同時試乗したこともあって、ハヤブサと比べると圧倒的に軽量であることを実感した(ハヤブサの試乗も近々お伝えしたい)。軽量ゆえに路面からの影響も受けやすく、ゆえにライダーも路面状況をよく見て、路面がバイクに与える影響を予測して対応しなければいけないとも感じた。首都高の段差などでは適度に足に力を入れて尻を浮かせ突き上げをいなす、といった、バイクと一体となって走ることが求められるのだ。だからこそのクラウチングポジションであり、ただ考えもなしにドカッと座っていては本領を楽しめない。究極のスポーツバイクであるGSX-R1000Rはライダーにもスポーツマンでいることを求めている。

 

 ワインディングでも「鼻歌感」は変わらない。車格が400ccぐらいにしか感じないため、公道の半径の小さなコーナーが続くワインディングでも意外や「狭すぎる!」といった感覚はなく楽しめてしまう。ブラインドのコーナーでも曲がり始めてからいくらでも修正が効くため怖さはなく、また高めのギアでも低回転域からトルクが豊富なためちょっと大きめにアクセルを開ければいつでも必要十分(以上)の加速が取り出せる。

 

リーンウィズでノホホンと走っていても十分速いが、小さな車格と入力がしやすいクラウチングポジションを活かして積極的に走らせてこそ本当の楽しさがある。ちょっと体を入れてみる、ちょっと尻をずらしてみる、といったスポーティなアクションをすれば軽量な車体はイキイキしだす。加速性能はもちろんのこと、減速からスッとコーナーに向けて寝かし込んでいく感覚は本当に意のままで、大変に気持ちがいい。スポーツマインドを持って接すれば低い速度域でも充実のスポーツ感が確かにあるのだ。

 

 ただ調子に乗って低めのギアを選んでいると、何かのギャップに乗った際に思った以上にアクセルが開いちゃったりした時に、意図せず素っ頓狂な加速をしたりすることもあるため、やはり公道では自制心をもって高めのギアで流す程度がイイだろう。いくら自在の運動性だからと言ってサーキット気分で飛ばし始めれば、途端に道がとんでもなく細く感じてすぐに危険な領域に踏み込んでしまうだろう。

 

  • 買おう、最後のGSX-R

 GSX-R1000がこの型になった時点で、実は開発の方が「これが最後のGSX-Rになるかもしれない」と漏らしていた。様々な規制が年々厳しくなり、今のユーロ5の次の規制が入った時、GSX-Rの名に恥じない性能を持ったスポーツバイクを、お客さんに納得してもらえる価格で提供できるかといったら「難しいと思う」とのことだった。スーパースポーツ市場が縮小していることもあって、コストを回収することも難しいだろう。

 

 事実、こんなに素晴らしいバイクであることをしっかり理解していて「本当に一度買っとかないといけないぞ!」と実感している筆者でも、では今、200万円を出して200馬力のバイクを買って、一体どうやって遊んだらいいのだろうと首をかしげてしまう。ゴーストライダーよろしく公道をぶっ飛ばしていくのはもちろん(以前にも増して)ご法度行為。かといってサーキットばかり走るのも色々ハードルが高いし、そうなるとナンバーをつける意味もない。

 

「GSX-Rブランドをなくしてしまうなんて!」と残念がったり怒ったりしているユーザーが、それぞれみんなGSX-Rを買っていればまだブランドは続いたかもしれないが、そもそもスーパースポーツという乗り物自体が、現代社会に馴染まなくなってきているのかもしれない。

 

 ここにGSX-R1000Rブランドは幕を下ろすわけだが、モトGPの技術が惜しみなく投入された最後のGSX-R10000Rはやはり最高である。そしてなんともスズキらしい付き合いやすさもある。経済力とこういったモデルを楽しめる時間的環境的余裕のある人は、是非ともこの最後のGSX-R1000Rを買おう。どこでどう使って良いかわからないと言っている場合ではない。世の中がユーロ6だエコだ電動だとなる前に、このスポーツバイクの傑作っぷりを味わってみるというのはこの時代に生きたライダーの特権に思える。

 

 ただGSX-Rブランドに思い入れを持ちつつも、現実的路線のライダー(筆者)は、買えない代わりにこの素晴らしいブランドに感謝しつつ、見送ろうと思う。なお、GSX-Rブランドは125で生き続けていることも付け加えておこう。カワサキが250/400で4気筒を展開する今、スズキも400クラスでGSX-Rブランドを復活させてくれないかな、なんてことも妄想しておく。

 

仕向け地によって出力の数値は微妙に違うが、おおよそ200馬力を発揮するエンジン。それでも他社に比べればロングストローク傾向で低~中回転域でのトルクを確保するべくチューニングしている。またモトGPからフィードバックしたカムタイミングを変更する機構VVTも搭載。遠心力を利用したシンプルで耐久性もある構造で、吸気側のカムタイミングを変更してくれる。トルクフルな特性はレースシーンにおいても利点となり、一昨年は世界耐久でもチャンピオンを獲っているが、結果として公道でも乗りやすい特性に仕上げられている。

 

トルク特性を追求して吸排気系にも力が入る。サイレンサー手前のバタフライバルブはもちろんのこと、エギゾーストパイプ間のバイパスパイプ内にもバタフライバルブを設け、低回転域トルクと高回転域パワーの両立を追求している。なおGSX-Rは2本出しサイレンサーになったりもしたが、この型では1本出しタイプに。排気音はうるさくは感じないものの、高回転域では存在感のある咆哮だ。

 

サブタンクを持つショーワのBFFフォークを採用。ブレーキは大径320mmディスクにブレンボラジアルマウントキャリパー、マスターシリンダーもブレンボ、ブレーキホースはステンレスメッシュと初めからサーキットスペック。なおブレーキレバーには高速走行時に風圧で押し込まれないためにスリットが設けられている。

 

リアサスもショーワの、バランスフリーリアクッションライトというもの。フロント同様BFFシステムにより減衰力応答性が向上し、路面状況を把握しやすくコーナリングのグリップ性を向上させているという。ホイールは6本スポーク。純正装着タイヤはブリヂストンのRS11だ。

 

ハンドル位置は低くスポーティだが、タンクが短くて腰と手首の距離はそう遠くない。ライディングポジションは自然とクラウチングスタイルとなり、ライダーの積極的な入力/体重移動がしやすかった。

 

シンプルなモノクロメーターは「カラーにしても速くはならないでしょ」と言われているようで潔い。各種走行モードやトラコンの設定などは左スイッチボックスから操作可能。

 

スポーティな体重移動に対応しつつ、一定の快適性も確保しているシートは好印象。タンデムシートは申し訳程度で、長距離タンデムや荷物の積載は重要視されていないだろう。ただシート下には純正でETCが装着されているのはありがたい。

 

制作・協力

■試乗・文:ノア セレン ■撮影:鈴木広一郎 ■協力:SUZUKI

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