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【SUZUKI HAYABUSA】ウェルカム・ニューフラッグシップ 「アルティメットスポーツ」が不動の地位に
- 中古バイクカタログ
- 2023.10.20
今回は【SUZUKI HAYABUSA】を紹介します!
ハヤブサの歴史はもう長く、モデルチェンジも2回しつつも「アルティメットスポーツ」のコンセプトはブレずに、スズキのトップモデルとしてここまで来た。ところがスズキラインナップにはGSX-R1000というモデルがあった。上質さならハヤブサ、しかしサーキットタイムとなるとGSX-Rがある。本当のフラッグシップはどっちなのか……。
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GSX-Rの引退とハヤブサの責務
ハヤブサとGSX-R1000は、欧州や北米ではなんとなく同じカテゴリーにくくられていたかもしれないが、少なくとも国内において直接的ライバルという関係であったことはないように思う。登場年はハヤブサの方が先で、市販車がフルノーマルで実速300km/hに届くのか、という当時のチャレンジに乗っかったモデルだった。そして実際に300300km/hが出たことで世を驚かせたわけだが、2年後に登場したGSX-R1000もまたサーキット/公道両方においてエポックメイキングなモデルであり、スズキにとっては確かなフラッグシップとなっていった。
そんなスズキのツートップだったが、昨年GSX-R1000は引退することになり、逆にモデルチェンジしてまだ日の浅い3代目ハヤブサはスズキラインナップの頂点に位置することになった。究極のハイパワーバイクでありつつも、同時にあらゆる速度域で公道を楽しめるオールラウンドマシンでもあるハヤブサ。説得力のあるバイクだが、GSX-Rという仲間がいなくなった今、背負い込んだものも大きい気がする。
しなやかで上質。重さも味方に付ける
ハヤブサの魅力は、特にGSX-Rのような純スポーツマシンと比べた時、「上質さ」に尽きる。レースレグレーションの1000ccという枠に限定されていないおかげで1339ccの排気量を誇り、それにより7000回転で149N・mのトルクを獲得。実際には7000回転も回すことは極稀なのだが、新型でさらに増強された常用域のトルクも十分であり、かつ滑らかで上質なのだ。
パフォーマンス重視の高回転スーパースポーツモデルでは時として硬質な微振動を発することがあるのに対し、ハヤブサのパワーフィールは全てにおいてダンパーが効いているような感覚で、四輪の大排気量高級車を連想させてくれる。とにかくチカラがあるため、タコメーターなど見ずにどんどんとシフトアップし、早々にたどり着いてしまう6速でオートマ感覚で走れてしまうのだ。
素晴らしいのはこの6速で流しているような領域がとても平和なのと、それでいて一般の交通の中を走り、時としてアクティブに捌くような場面でも一切のシフトダウンを要しないことだ。本当にオートマ感覚で、ただただスムーズに、かつ右手を大きめにひねれば力強く、巨体を思うままに進めることができる。重量は確かにあるのだが、それも四輪高級車的で、ドシッとした重量がイヤな重さではなく、むしろ上質さを生んでいて、かつ重く感じさせない動力性能がある。これはGSX-Rにはなかった魅力で確かにフラッグシップらしい。
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そのまま300キロの世界へ
街中で使う常用域では高級車的優雅さ・上質さを持つのに、6速固定のままでアクセルをひねれば300km/hの世界まで連れてってくれる実力もあるハヤブサ。高速道路の速度域で回転数が高くなってきても上質さが失われることはなく、平和に超高速まで導いてくれるその余力に速度感覚が麻痺するため気を付けたい。
スポーツバイクと比べれば長くて重心が低く、かつ重いわけだが、高速道路を走っているとそれら要素がむしろ良い方に働く。超高速から切れ味鋭いハンドリングも求められるスーパースポーツと違って、ハヤブサはドシッと安定した快適な高速走行を提供してくれるのだ。高速道路の継ぎ目などに乗った際もリアが突き上げられたりすることはなく、スタッスタッと路面を踏みしめていくし、速度が乗ると空力も効いてくるようで、なお路面に吸い付く感覚が強まる。シートが低いことでライダーがそもそも路面に近いため安心感があるし、スーパースポーツモデルのようにバイクの上にチョコンと乗っかっているというよりも、バイクの重心位置の近くでバイクと一体になって突き進んでいる感覚が強い。
実際に300km/hを出す場面は、少なくとも日本の公道においてはあり得ないわけだが、しかしもっとずっと低い速度域でも「これなら本当に300キロ出るんだろうな」と感じさせてくれる安定感と余裕が確かにあり、その底知れぬ実力を常に感じていられることこそがハヤブサの魅力だろう。
タイトコーナーも得意だが重さに注意
ハヤブサは300km/hという超高速が出るということが注目されることが多いが、実は細かな峠道なども得意とするから不思議だ。初期型の頃から、実は舗装林道のようなシチュエーションでも巨体をコロリコロリと翻して意のままに走れてしまう。3代目になった今のモデルもその性格を引き継ぐどころか、ステアリングのディメンションはよりクイックな方向に改められ、今まで以上に低速域での軽快さを追求している。
舗装林道、は言い過ぎかもしれないが、それでもセンターラインのないような細めのワインディングではこれが滅法活きる。クリン!クリン!と左右にバイクをバンクさせ、2速か3速でグイグイと加減速。当然ABSやトラコンも付いているため、予想外の落ち葉やコケがあっても安心だ。「こんなに大きなバイクがこんなにも意のままに動かせるのか!」 と驚くわけだが、その「意のまま」感はある意味GSX-R1000以上でもある。あちらももちろん意のままなのだが、エンジンの反応が硬質でありサスペンションも高荷重設定のため、ちょっと本気度が高くてライダーも気構えが必要なのに対して、ハヤブサはリラックスしたままシームレスにスポーツの領域に片足を突っ込んで行けるような感覚なのだ。
一方で速度が乗るような峠道に移るとちょっと気を付けなければいけないとも感じる。速度が乗りっぱなしの、大きなアールが連続するようなワインディングならば良いのだが、直線があって、そこから突然ヘアピンになるような中速域ワインディングでは、「やはり重いな」と感じることもあった。ウワッ!と速度が出て、ギュッとブレーキをして、クイックなハンドリングでクイッとターンインするのに、車体の重さが後ろからズイズイと押してきて、意図したターンインができないことがあった。
GSX-Rのようには行かないか……などとも思ったが、そこは乗り方の工夫だろう。GSX-Rだったら視線を送ればスッと思い通りになるところ、ハヤブサはもう少しコーナリングを組み立てつつ、意識的に逆操舵を当てたりしながら、巨体をしっかりとコーナリング体制へと持ち込む必要がある。と言っても、あくまで純スポーツマシンであるGSX-R1000と比較して、という話ではあるが。
フラッグシップのバリエーションに期待
とにかく上質で、高級四輪車のような優雅さがあり、確かな速さと誰でも一目置くプレゼンスがあるハヤブサ。引退したGSX-R1000のような究極のスポーツ性の代わりに、公道で広く使える「アルティメットスポーツ」というコンセプトをしっかりと進化させていると感じる。速さ、上質さは間違いなく、それでいてツーリングシーンでは楽もさせてくれるようなフレキシビリティもあるのが魅力だろう。
しかしこれだけ懐が深いハヤブサだけに、そして今やまさしくスズキのフラッグシップになっただけに、バリエーションモデルにも期待したいとも思った。
今のハヤブサをスタンダードモデルとし、これの他に「ハヤブサGT」などどうだろう。GTと言えばGSX-S1000GTというモデルもあるが、あれはツーリングシーンを意識しつつも軽量で切れ味鋭いというスポーツバイク的性格が色濃い。対して豊かなトルクと包容力のある車体のハヤブサは仕立て上げ次第ではよりGTらしい乗り物になるはず。実はけっこう前傾の強いポジションをもう少しイージーなものに改め、リア周りはパニアケースなどが装着できるよう工夫し、そして追走型のクルーズコントロールといった最新の電子制御に加え、グリップヒーターの標準装備など快適性も向上させた「ハヤブサGT」があれば、なおこのモデルの魅力をアピールできるように思う。
もう一つは、ネイキッドバージョン、もしくはハーフカウルバージョンだ。ハヤブサのトルクフルなエンジンは、実はバンディット1250を連想させてくれる場面が多かった。余裕の排気量から生み出されるたっぷりのトルクと上質な乗り味……あぁ、バンディット1250も名車だった! ハヤブサベースで、バーハンドル仕様で、もっと軽量に仕上げて、バンディットS的ハーフカウルなど備えれば、さらに万能な乗り物になりそうだ。ハヤブサがベースとなれば昨今のストリートファイターのような軽量で(時には過剰とも思える)パンチの効いたネイキッドではなく、上質で万能性の高いネイキッドができそうに思う。
そして最後に、ライバルがスーパーチャージャーシリーズを成功させているだけに、スズキはハヤブサターボで対抗してほしい! かつてリカージョンというターボモデルの提案をしたこともあったスズキだが、300馬力のハヤブサターボが出れば、GSX-Rがいない今、それこそとんでもない説得力のはずだ。カワサキはスーパーチャージャー、ホンダはR-RR、ヤマハはクロスプレーン、さぁスズキ、ココはターボでどうだろう!
あまりの良さに妄想も膨らんでしまうハヤブサ。スズキの新たなフラッグシップとして走り始めたばかりだろう。このままでも魅力あふれるモデルだが、スズキがハヤブサをさらにエンジョイしてくれないかな、と勝手に期待している。
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車両詳細
シート高は低めのおかげで、巨体ながら一体感が高く足つきも良い。バイクの重心とライダーの重心が近くにあると感じ、自信をもって扱うことができる。ただポジションは前傾が思いのほか強く、長距離となると左手を放してタンクの上に肘をつく、といった場面もあった。超高速が可能なバイクのためこのようなポジションなのだろうが、少なくとも国内ではハヤブサが出しえる超高速はご法度のため、もう少し安楽なポジションでも良いかな、とは感じた。ただこれでも先代に比べるとハンドルは近くなっているのだ。
1339ccのエンジンはこの3代目でピークパワーはダウンしているが、その分常用域でのトルクは強化され、低~中回転域の繋がりは以前にも増してトルクフルで速い。また各パーツの耐久性も向上されており、長く乗って欲しいというスズキの想いが込められている。公道を走る上で高回転域のパワー減を感じる場面はないと断言できる。
先代でも特別ブレーキが甘いと感じたことはなかったが、海外ではフロントブレーキ強化を求める声もあったようだ。3代目ではブレンポスタイルマキャリパーを備えるなどアップデート。ブレーキ能力は文句なしなのだが、しかし本文中でも触れたようにそもそも重いバイクのため、ブレーキングには余裕を持ちたい。
足周りだけでなくフレーム含めて基本的には先代を踏襲している3代目。スイングアーム周りなども引き継ぐ。2本出しのサイレンサーは巨大ながらスマートなカタチへと生まれ変わり、車体に沿うような多面で構成されバンク角も十分。ただ先代ではサイレンサーを交換すると軽量化により運動性が飛躍的に向上したことも記憶するため、この3代目でも軽量なサイレンサーに交換すればまた違った魅力も見られるかもしれない。
縦2眼フェイスと左右のエアインテーク継承しつつスタイリングをアップデート。ヘッドライトのカタチはどこか2003年型GSX-R1000も思い出させてくれて、懐かしさもあると同時に直感的に「スズキらしい」と感じた。エアインテーク部に埋め込まれたウインカーもハヤブサらしいが、それがスマートにデザイニングされているのがさすが。
横長になって四輪車のようなデザインとなったテールランプ周り。被視認性も高く、また他のスポーツバイクとは全く違う個性があり個人的には大好きな部分。テールライト下にスポイラーのようなものがついているのも高級感がある。現車はタンデム仕様だが、もちろん、ハヤブサのアイデンティティとも言えるようなシングルシートカバーの「コブ」も用意される。
スーパースポーツと一線を画すしっかりと厚みのあるシートがまた、バイクそのものを柔軟に感じさせてくれるし、振動もライダーに伝えなく、快適だけでなく上質さに貢献している。また後方の長さにも余裕があるため、スクリーンに潜り込むときにしっかりと腰を引いて座ることができ、長身でもヘルメットをスクリーンに当てることなく無風領域に潜り込むことができた。タンデムシート部もしっかりと面積がありパッセンジャーの快適性だけでなく荷物の積載にも対応する。
3代目でポジションがいくらかコンパクトになったとはいえ、やはりそれなりに前傾しておりスポーツバイク然としている。ただセパハンはトップブリッヂ上にラバーマウントされており、ここでも振動をライダーに伝えないといった工夫が。個人的にキーを電子キーとせずに、シンプルで機能的なメカニカルキーを継承したのはプラスポイント。スクリーンは長身の筆者にとってはもう少し高くても良いと感じた部分。しっかりと防風性を得るには意識的に伏せる必要があった。
ハヤブサ伝統の4連メーターを継承しつつ、中央には各種電子制御の表示をするスクリーンを配することで、だいぶ横長となったメーター周り。アナログのメーターが振れていく視覚的快感はデジタル表示にはないもので、これは気持ちがいい。電子制御はパワーモードに加えABSやトラコンなど今や普通のものは皆ついていて、それら操作も難しくない。トルクに乗って、ライダーの速度感覚を麻痺させるほどすぐに速度が上がってしまうため、任意で設定できる速度リミッターの搭載も歓迎したいところ。無意識的な速度超過を避けることができる。ただクルーズコントロールについては、いまや追走型が一般化してしまい、通常タイプのクルーズコントロールではいくらか旧いような印象も受ける。
●SUZUKI Hayabusa 主要諸元
■型式:8BL-EJ11A ■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:1,339cm3 ■ボア×ストローク:81.0×65.0mm ■圧縮比:12.5 ■最高出力:138kw(188PS)/9,700rpm ■最大トルク:149N・m(15.2kgf・m)/7,000 rpm ■全長× 全幅× 全高:2,180 × 735 × 1,165mm ■ホイールベース:1,480mm ■シート髙:800mm ■車両重量:264kg ■燃料タンク容量:20L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤサイズ:120/70ZR17M/C・190/50ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■車体色:ブリリアントホワイト×パールビガーブルー、グラススパークルブラック×メタリックNo.2、サンダーグレーメタリク×キャンディダーリングレッド ■メーカー希望小売価格(消費税込み):2,156,000円
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:鈴木広一郎 ■協力:SUZUKI