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【クロスカブ110】カブでスポーツしたい? クロスカブは日常と趣味に加え、スポーツも獲得した!
- おすすめコラム
- 2025.03.03
クロスカブ110の魅力をたっぷりじっくりご紹介!
スーパーカブ及びクロスカブがホイールをキャスト化し、フロントにディスクブレーキを装着したのは2022年のことなのだからもう2年も経つことになる。
パンクしにくい、良く止まれるというその効果は、実はカブに新たな魅力ももたらした。
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かつて「スポカブ」という乗り物があった
カブの歴史は古くまた愛好家も多いため、軽率に何かを言おうものなら方々からご指摘を受けそうで怖いが、かつてカブには「スポーツカブ」という、実用性よりもスポーティさを売りにしたホットバージョンがあった。それはフレームからしてカブとは違うプレスバックボーンタイプだったのだから、では果たしてあれを「カブ」と呼んでいいのか問題が出てくるわけだが、まぁ、「カブのエンジンをスポーティに走らせてみても良いじゃないか!」という気持ちは昔からあったのは事実だ。
2022年にキャストホイールになったスーパーカブとクロスカブ。これは別段ハイパワー化しただとか、よりスポーティな味付けにした、といったことは一切ない。エンジンはロングストローク化されたのだから、コンセプトとしてはスポーツよりむしろ快適性や実用性を狙った進化だったとも言えるだろう。キャストホイール化とディスク化もパンク対策やABS搭載の法規に合わせた、という部分も大きいはずだ。ただコレによりカブはずいぶんと「シャキッ!」としたと感じ、乗った経験があるわけでもない「スポカブ」を連想したのだった。
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様々なカブ系マシン
スポーツカブはOHV時代のエンジンであり今や完全に旧車である。が、その後も実用一辺倒ではなく「走らせて楽しいカブ系」はたくさんあった。筆者が所有していた中でカブらしからぬ面白さだったのはCD90。別段速かったわけではないが、マニュアルクラッチと90ccエンジンでそこには確かな「スポーツ」があった。また現行のカブ系ファンバイクを見ると、モンキーやダックスもまた、ちゃんと「楽しめる」スポーツ性を備えている。カブ系エンジンは世代を超えてどこかに「スポーツ」を引き継いできているのだ。
そして今回のクロスカブである。スタイリングは先代と大きくは変わらないし、サイズ感、取り回しも同様。日常と週末のクロスオーバーというコンセプトも引き継いでいる。しかしキャストホイール化とフロントのディスクブレーキ化は、これらスポーティなコンセプトも持つカブ系兄弟車を思わせるような楽しさをプラスしてくれたと感じる。
■「没頭する」楽しさ
カブという乗り物は、乗り物そのものを味わったり楽しんだりということ以上に、その乗り物が連れて行ってくれる場所や体験が魅力となることも多いだろう。静かに、燃費良く、荷物も積めて、疲れずに移動できるカブは時としてツーリング体験において脇役ともなる。ところが今回のディスク化&キャスト化によってバイクの存在感が増したと感じたのだった。
そのキモはやはりディスクブレーキ化である。フロントブレーキを積極的に使って減速できる/止まれるというのは、これほどまでに「スポーツ」だったか、と再認識させられたのだ。これまでのドラムブレーキでもリアブレーキを併用すれば制動力そのものは及第点だったが、それでもいくらブレーキレバーを握り込んでも、舗装路であればフロントタイヤをロックさせることはできなかった。よって常にリアブレーキとの併用、ゆえに減速時はスイングアームが沈み込み、極安定した姿勢で速度を落とすことができたのだ。
対するディスクブレーキはいとも簡単にロックさせられる(とはいえABSが付いているが)制動力を持っている。このため、リアブレーキをさほど意識せずとも止まれるだけでなく、もっともっと積極的にフォークを動かすことができるのだ。フォークが動くことでピッチングが生まれ、スポーツバイクかのように旋回性を引き出すことができるようになった……というのが、「スポカブ」、あるいは実体験としてはかつて所有していたCD90を思い出させてくれた要因だろう。
フロントブレーキの制動力とコントロール性一つで、基本的には先代と変わらない車体ながらググっとスポーティさが増したクロスカブ。ツーリングシーンでは脇役に徹するだけでなく、バイクを操るという意味で主役にもなり得る魅力を備えたと思うのだ。
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「クロスオーバー」は欲張りの証
そもそも、日常と趣味のクロスオーバーがコンセプトだったクロスカブだが、ディスク化によりスポーティさを獲得したため、「趣味」の方が少し強まったような気がする。とはいえ、パンクの心配の減ったキャストホイール化は日常領域の進化でもあるし、ディスク化したからと言って日常使いにおいて何かが犠牲になったということもない。多方面においてまさに正常進化であり、欲張りライダーを更に納得させてくれる仕上がりなのだ。
ハンターカブの人気によりしばらく目立たない存在になっていたようにも感じるクロスカブだが、ハンター人気もひと段落した今、改めてその魅力に注目してほしい。車重の軽さ、シートの低さ、そして価格のリーズナブルさもクロスカブの魅力である。
ハンターカブが登場するまでは、カブのレジャー版として人気を集めていたクロスカブ。ハンターカブ出現によって注目度は減ったかもしれないが、実はコンパクトで軽量なクロスカブはとても魅力的なのだ。2台の数値を見比べると、車重は11kg軽く、シートは16mm低く、価格は7万7000円低い。足着きも良好でライダーを選ばない。
ハンターカブやモンキーなどの125ccユニットではなく、こちらはスーパーカブと同様の110ccユニット。排気量が少ない分スムーズで静かな印象があり、フケ上がりも軽やかだ。4速ミッションのレシオはハンターカブよりも低く、だからこそワインディングではシフトチェンジを楽しみながら走らせることもしやすい。ディスクブレーキ化を機に、クロスカブのスポーツ性を再発見した思いだ。
ディスクブレーキ化はABSの搭載など法規的な部分での採用という意味も大きいだろう。しかしそのコントロール性や絶対的制動力は大歓迎したいと同時に、より積極的にフォークのピッチングを引き出せるという意味でクロスカブをグッとスポーティにしてくれた変更でもある。
スイングアーム形状やプリロード機能を持たないリアサス等ベーシックな作りはスーパーカブに準ずる。リアホイールもキャスト化。チューブタイヤのパンク修理を自分でこなす!というツワモノもいるが、そうでない人にとってチューブレスタイヤはガソリンスタンドやJAFでもその場で修理できる可能性が高まるためありがたい。なおリアブレーキはコストに優れるドラムを継承するあたりも「カブ」である。
シートもキャリアもスーパーカブ同様のもの。シートのクッションは上々で長距離でも尻は痛くなりにくいし、キャリア前方のハンドル部が低く設定されているおかげで、大柄のライダーが乗っても尾てい骨を打ち付けることがない(ハンターカブは高く、大柄ライダーにとってこれは懸案事項)。なおキャリアは実用重視のスーパーカブからきているだけのことはあり、荷掛けフックの数、位置、形状共に極上。荷物の固定は大変にしやすい。
ライト周りはフレームマウントされており、その上には小さなキャリアも備える。重積載時にはこちらにも荷物を分散させることで車体の前後バランスを整えることができるのも嬉しい。
左右スイッチボックスはとてもシンプル。左側はホーンとウインカーのスイッチ位置が上下逆なのはホンダの定番だが、これはやはり慣れず、使いにくいだけではなく不意にホーンを鳴らしてしまうため周囲への迷惑が心配だ。右側はキルスイッチがあれば特にこの暑い季節は自主アイドリングストップがしやすいのに、と感じた。ハンドルはスーパーカブと違いバータイプのおかげで、各種後付けの機器は装着しやすいだろう。
無骨でシンプルな指針式メーターはとても見やすく好印象。手前には液晶があり、燃料計、時計など便利な表示の他ギアポジションインジケーターも備える。ロータリー式ミッションのカブこそ、ギアポジションインジケーターはありがたい。
■試乗・文:ノア セレン
■撮影:渕本智信
■ウエア協力:アライヘルメット、アルパインスターズ