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身体が万全じゃあないから分かるサスペンション性能

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  • 2024.02.20

【KAZU中西の鋼騎馬ラプソディ】vol.175。愛車のリアショックを交換したカズ兄さん。その様子をレポートいただきました!

このほど、デイトナのアジャスタブルリアショックを投入したカズ兄のZ2。STDからアップグレードしているのは間違いないのですが、それを体感できるか否かは経験則よりも身体の調子にあり!? そんなリアショック交換のインプレッションです。

 

 

  • 勢いとテクニックで無難に乗りこなすしかなかった時代

僕がバイクに乗り始めた80年代前期は、現代のように車種専用の高性能アフターパーツが少なく、あったとしてもアルバイト代で買えないほど高額でした。でも、サーキットは走りたい、レースにも出たい。アマチュアレーサーにとっては、チューニングのノウハウ不足や資金難で大変苦労した時代でもあります。苦労の一つにサスペンションセッティングがあり、チームの先輩方や地元の兄貴分から教わったセッティングが、必ずしも僕に合っているとは言えないモノで、しかしせっかく教えていただいたのだから、そのセッティングで何とか乗りこなすしかなかったです。僕と同世代に無冠の帝王と呼ばれるバイク業界人ライダーが多いのは、そんな背景があったからなのかも。とは言え、10代は若さがありますから勢いで乗り切れる場面が多かったの事実で、バイクのセットアップについて深く考えるようになったのは20代半ばくらいからでした。シャシー性能やサスペンションセッティングについて、体感で分かるようになってきたのは30代から。最も影響が大きく、その後のセッティング術にも活かせているのは、モリワキMD600の乗車経験。この時、モリワキエンジニアリングの森脇護会長から、フレームの作り方からセッティングについてなど、とても詳しく教わることができました。まさに霧が晴れた感覚で、それまでのモヤモヤしていたセッティング術について、開眼できたように思います。ちょっと大げさかな?

 

セッティングについて、もっと勉強していれば良かったなぁと思う高校生時代。先輩方や雑誌の記事を参考に自己流でした。速く走れないのは、センスとテクニックの無さ、エンジンパワーの無さだと思っていましたが、そうとは言い切れないと知るのは30代になってからでした。

 

20代になってからも、セッティングについてはパワー系を優先、サスペンションについては運転技量で何とかなると思っていました。今にして思えば、どんなバイクでも乗りこなせるという過信がありましたね。また、当時乗っていたバイクは、かなりマニアックな部類だったせいもあり、アフターマーケットの専用カスタムパーツが無かったのも、少なからず影響しています。

 

20代後半から30代となり、エンジンチューニングやサスペンションセッティングについて、深く考えるようになりました。工学系専門書籍を読み漁り、学生時代以上に勉強していたと思います。しかし、サスペンションセッティング一つとっても、様々な見解やセッティング方法があり、どれを試しても心の曇りが撮れることは無かったです。そんな中、目の前がパァっと開けたのは、モリワキエンジニアリングが製作したMD600に試乗させてもらった事です。いわゆる競技専用のコンペティションマシンに乗るのは、GP125&600㏄のエンデューロマシン以来。MD600はそれらのどれとも異なる超異次元のレベルにあり、実戦で勝つためのシャシーはこんな風に作るンんだ!を教えられたように思いました。僕のインプレッションを森脇護会長に話すと、「ようそこに気づいたな」とニヤリ。ここから、僕が感じていたことは作り手の考え通りだったと確信し、目の前の霧が晴れたように思いました。

 

MD600を経験したころから、サスペンションセッティングについて、作り手が何を考えてそうしているのかに気づくようになりました。SP忠男のXJR1300は、ゴツイ足まわりパーツが奢られているわりに、乗り心地はソフト傾向。おそらく単に組んだだけでは成し得ないセッティングの絶妙さがあったと思います。KYBスペシャルサスペンションが装着されたMT-09では、STDとの如実な違いとセッティングについての考え方を知ることになりました。そんなセッティングについての考え方は、草レース用のXJR400Rに活かしました。文字で表現するのは難しいのですが、フロントサスペンションは嵌合剛性を活かす方向、リアサスペンションはタイヤを潰しつつ粘り腰を見せる方向。ハーフスロットル状態で走っても、そこそこ良いタイムが出せるマシンになりました。

 

  • リアショックの交換作業にともなう注意点

カズ兄のZ2にデイトナのアジャスタブルリアショックを装着する。文字にすれば実に簡単な話だと思えることでしょう。しかし、比較的に交換作業が簡単なツインショックでも、事前の準備や確かな整備術が必要です。僕が自宅でやったことは、リアショックの外径アップによるチェーンケースとの接触をかわすカットオフ加工。同じく接触問題となるのがドライブチェーンサイズなのですが、カズ兄のZ2はかなり以前から520サイズにコンバートしてあるので全く問題なし。リアショックの交換作業は、カズ兄のZ2にもっとも詳しい絶版車専門のウエマツさんにお願いしました。正しい知識と整備術があればDIYでも交換できますが、足まわりは命の危険に直結する部分でもありますので、100%の自信が無いならバイク専門ショップにお願いしたいところです。

 

デイトナのアジャスタブルリアショックを装着するにあたり、チェーンケースはかなり大胆にカットオフしました。できればアフターマーケットの逃げ加工済みチェーンケースに交換したいところです。

 

丸Z系の場合、デイトナのアジャスタブルリアショックを装着するにあたり、530サイズ以下にコンバートするのが必須となります。丸Z系のSTDドライブチェーンサイズは630だったりします。当時の採用理由は大荷重に耐えられる事、リンク数を少なくして軽量化を狙ったと聞いています。しかし、金属加工の進歩、製造技術の進歩から、高品位な530サイズのドライブチェーンにコンバートするのが可能となりました。ここでのポイントは、高品位であること。530サイズなら何でも良いというわけではありません。カズ兄のZ2ではさらなる低フリクション化が図れ、加速減速&スピードのノリが良くなる520サイズへのコンバートを図っています。これも530サイズと同じく、メーカーに確認した上で高品位なモノを選ぶのが鉄則。僕はRKジャパンの520XWR2、サンスターのドライブスプロケット、RKジャパンのドリブンスプロケットで520コンバートしています。

 

丸Z系でもう一つ注意したいのは、純正グラブバーとリアショックアッパーとの接触です。長さが適合する汎用品でも、この丸で囲んだ部分が接触してしまうモノがあります。サスペンションがストロークして、この部分が接触してしまうと、リアショックの動きを妨げることになります。デイトナのアジャスタブルリアショックは、専用設計ならではのクリアランス確保、いわゆる逃げ加工が施されているため、安心して取り付けることが可能です。

 

今回のリアショック交換は、カズ兄のZ2を制作した絶版車専門のウエマツさんに依頼しました。確かな技術力はモチロンですが、絶版車のプロはどのようにして装着するのだろうと興味があったのも依頼の理由です。細かなノウハウについては割愛しますが、僕が想像していたより遥かに上の気遣いが随所にあったことだけお伝えしておきます。

 

  • 接地感とクッション性に感心する

さて、いよいよ本丸と言えるデイトナのアジャスタブルリアショックのインプレッションです。交換前はSTDリプロを装着していました。この狙いは、前後のサスペンションバランスを取るため。フロントフォークがSTDならば、リアもそれなりのサスペンションに仕上げないと、Z2本来の性能を引き出せないと思っていたからです。可能な限り同条件で試したかったので、ウエマツさんにご協力いただき、まったく同じルートで走り、走行シーンを撮影いただきました。その後、修善寺までの帰路は高速道路、途中で雨に降られましたが、接地感が良く乗り心地もすこぶる良かったです。これを感じられるのは、僕の身体が五体満足でないからです。実は、98年に大事故に遭い、瀕死の重傷。リハビリを頑張り約1年で退院できたわけですが、骨盤骨折と左腕の変形(偽関節アリ)は完全に治りませんでした。その骨折&変形箇所は筋肉でカバーしているのですが、神経の位置からちょっとの衝撃でも過敏に感じられるようになりました。モチロン、ものすごく痛みを伴うので我慢の限界はありますが、バイクの乗り心地やサスペンションセッティングの違いについては、勢いだけで走っていた10代の頃より細かく感じ取れていると思います。

 

1998年の5月、GWの連勤から解放され、明日から長期の休みというタイミングで、買ったばかりのGPZ900Rごと逆走してきたクルマに轢かれてしまいました。骨盤は真っ二つ、左腕は丸られた紙くずのようになり、両足の膝から骨が貫通するという全身20数か所の骨折。救急搬送された時は心停止。当時の担当医いわく、「死体が運ばれてきた」と思ったそうです。意識が戻った時は、まさに「死ぬより痛てぇぞ!」状態。そこから執刀医や病院の尽力があり、何とか社会復帰できました。バイクに乗れるようになったのは実に嬉しいことだったわけですが、寝ても覚めても常に腰の痛みと腕の傷みが付きまとい、これを緩和できるまで10年を要しました。今でも、硬めのサスペンション車に乗ると、具合が悪くなります。

 

ノーマルの前後サスペンションのセッティングは、様々な路面状況を想定して操縦性が破綻しないように作り込まれています。カズ兄のZ2では、STDリプロタイプのリアショックに交換してありましたが、Z開発陣の狙いを感じつつ、ノーマルの乗り心地を知る意味で、このチョイスしかなかったと思います。実際、フラットダートくらいなら難なく走破できるサスペンションセッティングとなっており、高速道路やサーキット走行を含めた全域でのバランスとしては、実に絶妙な領域に収めているなと思います。ただし、荒れた路面で現代的な速度レンジで走ると、路面からの突き上げが身体へモロに伝わり、クッション性能としては5段階の3もしくは2くらいの評価です。

 

デイトナのアジャスタブルリアショックに交換、走り出してすぐに感じたのは乗り心地の良さ。ギャップ越えの際、STDリプロではガツンガツンと身体を突き上げてきましたが、デイトナのアジャスタブルリアショックでは、ポムッポムッと衝撃をいなす感じです。したがって乗り心地が良く、乗車姿勢も安定していますから、STDより明らかに疲れにくい。路面への追従性もよく、コーナリングではSTDリプロ以上に接地感を得られます。おかげで、長い直線路からカーブ区間へのアプローチ時に、妙な緊張感がなくなりました。接地感が良いからブレーキの効きも良い。フロントのSTDサスペンションとの相性も良いです。できるだけノーマルルックにこだわりたいという人に向いていると思います。

 

参考リンク

デイトナ・アジャスタブルリアショック

ウエマツ

 

制作・協力

■ライター:KAZU中西

フリーランスのモータージャーナリスト。通称カズ兄さん。イベントMCやラジオDJ(FMIS・カズ兄さんのモーターレボリューション)などタレント業でも活躍。

観察分析力に定評があり、開発に携わったバイク用品やカスタムパーツも多数。

一方では、二輪車の事故防止&安全利用の最前線に立つ『Mr.事故ゼロ』とも呼ばれている。愛車はスペシャルメイドのZ2他。趣味はプレジャーボートのクルージング

 

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