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「二輪車の安全運転を考える」シンポジウム レポート
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- 2024.09.27
2024年9月12日(木)に行われた「二輪車の安全運転を考える」シンポジウムのレポートです!
2024年9月12日(木)に行われたシンポジウムをレポートします。
このイベントは、一般社団法人 日本二輪車普及安全協会が主催。
協会の基本方針は「二輪と社会との調和」。
「安全運転啓発」「規制緩和による利用環境改善」「流通環境の整備」を三要素とします。
二輪車と社会の調和を求め「より安全で快適なバイクライフを過ごせる社会」の実現をめざしています。
今回のテーマは「二輪車の安全運転を考える」。
健全な二輪車文化の醸成を目指し、長きにわたってバイクライフをおくるための講義です。
講義は4名が行いました。
(左から)
神奈川県警本部 交通部交通総務課長代理 小坂直人氏
埼玉県立秩父農工科学高等学校 教諭 今井教夫氏
株式会社スズキ二輪 代表取締役社長 濱本英信氏
株式会社アールエスタイチ 企画部長 栗栖慎太郎氏
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二輪車交通事故対策
神奈川県警 小坂氏の講義は「二輪車交通事故防止対策について~悲惨な交通事故をなくすために~」。
神奈川県内の交通死亡事故件数は、昭和45年の803人をピークに令和4年は過去最少の113人に減少。
交通死亡事故抑止としては、以下の2つを重点に対策。
・二輪車交通事故防止対策
・自転車その他の小型モビリティ対策
二輪車交事故防止対策として、以下の3つをあげました。
①交通安全教育
・二輪車はクルマやトラックより前面面積が小さいので、遠くに見えることを理解しスピードを抑制。
・交差点での右直事故(右折車と直進車の事故)が多いことから、実際の映像などで学習。
・「ヒヤリ、ハッとの経験」から「重大事故」に至るまでの比率「ハインリッヒの法則」を意識。
②広報啓発
・初心者&リターンライダー向けの安全運転講習会を開催し、技能を体得。
・神奈川県内の特徴として、二輪車事故は「通勤、ツーリング」時が多いのを周知。
・SNSの神奈川県警アカウントで情報を発信、イベントでの白バイ隊員との交流などを実施。
・通勤時にデジタル標識や、ワンポイントアドバイスなどで情報を提供。
③交通指導取締り
・交通事故多発地点をAI分析して事故の特徴などを学習し、集中取締りを実施。
・4月に電動キックボードなどを対象にした「小型モビリティ対策グループ」を設置。
最後に「安全は 心と時間の ゆとりから」をあげ、悲惨な交通事故をなくすための講義を終えました。
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地域と連携した交通安全
秩父農工科学高校の今井氏の講義は「地域と連携した交通安全」。
今井氏は本年で創立124年になる秩父農工で、23年間勤務するベテラン教師です。
埼玉県は高校生にバイクを「取らせない」「乗せない」「買わせない」の「3ない運動」を2018年に廃止。
721人の生徒の主な通学方法は徒歩、自転車、電車、バスなどがあり、バイクは49名が利用。
免許取得者数は原付が93人、自動二輪は3人。免許取得率は約13%。.
「3ない運動」時は、免許取得の統計を把握できなかったそうです。
「地域との連携」では、秩父警察署と各種の交通安全キャンペーンを実施。
地元の野菜やくだものなどを使って、自転車や自動車の運転者に安全運動を呼びかけ。
「地域の交通安全」として、こどもの時から自転車技術や法規の指導を実施。
こども自転車全国大会へ出場し、令和6年は優勝しました。
埼玉県の取り組みとして「高校生の自動二輪車等の交通安全講習」を実施。
運転免許を所持し運転する高校生に対し、交通安全意識の啓発をしています。
交通社会の一員となる自覚や資質の向上を図り、必要な知識や技能の習得が目的です。
年内も埼玉県内の各所で講習を実施予定。
講習内容は、日常点検、乗車姿勢、ブレーキング、コーナーリング、バランス、右直事故など。
実技では白バイ隊員による具体的な指摘のほか、救急救命時の心肺蘇生法などを学習。
「事故を防ぐ」今後の課題として下記を挙げました。
「安全教育」
・技術・知識を身につける
・事故を未然に防ぐ心の教育
「ハード面からのアプローチ」
・車両点検
・プロテクター等の装着
秩父市は「ゼロカーボンシティ」の実現に向けての取り組みを埼玉県の自治体で初めて宣言。
通学用へのEVバイク導入を検討し、3月に試乗会を実施。
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二輪車の安全運転を考える
スズキ二輪の濱本氏の講義は「二輪車の安全運転を考える」。
3つのテーマについて講義しました。
①若年層への交通安全教育について
1982年に全国高等学校PTA連合会が「3ない運動」を決議し、現在も一部の県を除き概ね継続中。
3ない運動撤廃のために、以下を活動。
・乗せない教育よりも乗せる教育
・免許を取得するためには交通ルールの勉強が必要
・希望の学校に通うための手段を用意
スズキは、U30セイフティースクールを開催。参加者の平均年齢は25.4歳。高校生の参加は無し。
免許歴は2年未満の合計が約8割。「27~29歳」が48%で最多。「21~23歳」が35%で続きます。
参加理由は「基礎を学びたい」「ライディング技術向上」「安全運転技術・知識の向上」など。
勉強になったことは「車両点検」「乗車姿勢」「ブレーキング」「低速バランス」「スラローム」など。
参加者の意見
・受講者が皆同年代なので安心して参加できる。
・皆同じようなレベルなので気を使わない。
・公道走行に不安があったが、レンタル車で丸一日練習できたので自信がついた。
②商品における安全運転の考え方について
安全装備以外の商品のつくり込みとして
・「走る、曲がる、止まる」のつくり込み(電子制御)
・実用域でのつくり込み(実用域で使いやすい、プラスアルファの価値観)
③リターンライダーへの安全運転教育について
新規免許取得年齢は、20歳代が最多で10歳代が続きます(2023)。
二輪車乗車中の死亡事故数では、20歳代よりも50歳代が最多を記録(2019~2023年合計)。
そこで「ベテランライダーのプライドを傷つけない商品づくり」として以下を提案。
・体力、技量に合わせた車種選択(ダウンサイジング含む)
スーパースポーツのフラッグシップGSX-R1000Rは、前傾姿勢で体力の負担が大。
GSX-R1000RのDNAを有し、アップライトなポジションで楽に乗れるGSX-S1000シリーズを用意。
さらにGSX-8R、GSX-8Sなど、実用域で使いやすいモデルも登場。
プライドを崩さない商品づくりとして、オーナーズミーティング開催でコミュニケーション機会を提供。
GSX-S/Rミーティング2024を、静岡県浜松市で10月20日(日)に初開催。
モーターサイクルショー開催地以外では「スズキモーターサイクルコレクション」で車両を展示。
ひとりひとりとじっくりしたコミュニケーションを実施。
ベテランライダーに向けた「北川ライディングスクール」開催するも、ハードルが高いという意見あり。
U30と北川スクールの中間の、リターンライダー向けの新たなカリキュラムを検討中。
「生涯にわたる交通安全」への取り組みとして下記を掲げました。
・3ない運動撤廃
・U30セイフティースクール(16~20歳代)
・北川ライディングスクール(ベテラン層)
・リターンライダー向け
・商品のつくり込み
安全装具の重要性と普及方法
アールエスタイチの栗栖氏の講義は「日本二輪車市場における安全装具の重要性と普及方法について」。
1975年設立の同社は、モーターサイクル用品の企画開発、店舗運営、輸入商材販売などを展開。
世界初エアバッグ搭載レーシングスーツ、電熱ウェア、水冷式アンダーウェアなどを発表。
オフロードコースのライダーパーク生駒を運営。
国内市場における二輪ライダーの安全装具の沿革は、
・1965年 高速道路でのヘルメット着用努力開始
・1978年 全ての道路での51cc以上のバイクのヘルメット着用義務化
・1986年 全ての二輪車(原付含む)ヘルメット着用完全着用義務化
内容が全てヘルメットに集約されており、以降の38年間乗車条件における法的な変化は行われていない。
自動二輪の交通死亡事故は2010年の518名から、2020年は385名に減少(-26%)。
10年間下がり続けているが、全体では-43%なので四輪車に比べ減少率は低い状況。
二輪車は、安全装置の普及が遅れているのが現状。
この10年の致命傷原因の7割が「頭部」と「胸部」に集中し、この2点の強化が必須の状況。
・頭部(ヘルメット)は、確実なあご紐結束の啓蒙が必要。
・胸部プロテクターの着用率は2020年で8.4%と極めて低いため、装着率の向上が望ましい。
ヘルメット以外の安全装具は、肩、ひじ、背中、尻、ひざなどの各部プロテクターが1980年代に登場。
80~90年代は背中(脊椎)を守るのが主流になるも、1996年にホンダが胸部損傷に着目。
2008年に用品メーカーに胸部プロテクターの供給を開始。共通の取付システムを公開。
2000年代にエアバッグによる身体保護の研究を経て、2011年に一般向けに市販を開始。
アールエスタイチのジャケットは、2005年に肩・ひじ・ひざのプロテクターを標準装備。
2008年登場の胸部プロテクターは「着用が面倒」「価格」などが理由で装着率が低いのが現状。
多数がライディングジャケット不着用の現状で「気軽に着られる工夫」などで安全性向上をめざします。
最後は、登壇者4名によるパネルディスカッションで意見交換&質疑応答。
・若年層に向けてバイクの魅力を発信し、リアルな体験への興味を持ってもらうことが重要。
・そのうえで安全装備の大切さを訴え、プロテクター全般の普及を推進。
などが話し合われました。
今後も、二輪車の安全安心に向けた取り組みを継続することを閉会のあいさつとしました。
日本二輪車普及安全協会 安全本部はマスコットキャラクターに「ニーリン」と「たぬゴー」の起用を発表。
各種イベントでの広報活動や、SNSの発信などで活躍します。
(取材協力)
一般社団法人 日本二輪車普及安全協会
(写真・文)
森井智之