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インド北部のヒマラヤを巡る旅“Moto Himalaya”

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  • 2022.11.16

今回は、インド北部のヒマラヤ周辺を回るバイクツアー“Moto Himalaya”の様子をレポートします!

2022年8月、イギリスで生まれインドで育ったバイクブランド/ロイヤルエンフィールドが主催する、インド北部のヒマラヤ周辺を回るバイクツアー「Moto Himalaya/モトヒマラヤ」に参加してきました。標高3500mからスタートし、5000m超えの峠を何度も通過し、4500m超えの宿泊地で泊まる。8日間約1000kmの、その旅の様子を紹介します。

 

【目次】

1.また行ってみたいと思うほどヒマラヤを巡るバイク旅は素晴らしかった

2.ツアーの様子

3.独特な景色を堪能

 

  • また行ってみたいと思うほど ヒマラヤを巡るバイク旅は素晴らしかった

ロイヤルエンフィールド(以下RE)は、1901年にイギリスで創業した、現存する世界最古のバイクブランドです。イギリスにルーツを持ち、さまざまなレースシーンで活躍。当時のバイクシーンを牽引する存在となりました。そして1955年にインド・マドラスに製造工場を設立。1960年代後半に英国における活動を停止してからも、REはインドで活動を続け、いまやインドを代表するバイクブランドとなりました。

 

そんなREが主催する、ヒマラヤ周りをバイクで巡るオフィシャルツアーのひとつが「Moto Himalaya/モトヒマラヤ」です。REは過去30年にわたって、REブランドのバイクでヒマラヤ周辺を巡るさまざまなバイクツアーを開催している、ヒマラヤバイクツアーのスペシャリストです。そのツアーの中には3週間ほどかけてインド中部からヒマラヤを目指すツアーから、半径2kmに人工的な光りが存在しない場所まで行って夜空を撮影するツアーまで、その旅のカタチはじつに多彩なのです。そこでの経験を活かして、2017年から新たにプログラムしたのがモトヒマラヤ・ツアー。同タイミングで市場投入した、RE初のアドベンチャーモデル「Himalayan/ヒマラヤ」が、ツアーに使用する車両なのです。

 

そもそも「ヒマラヤ」というバイクは、普段はスクーターに乗っているようなライダーでも、パッと「ヒマラヤ」に跨がりヒマラヤツーリングを安全に、確実に楽しめるバイクであることが開発のコンセプト。エンジンや車体も、そのコンセプトに基づいて設計されています。ヒマラヤなんて過酷な場所を走るなら、もっと排気量を大きくして、もっと強力なサスペンションを採用すれば良いのに、と考えてしまいますが、エンジンが大きくなれば車体も大きくなり、強力なパワーと大きな車体を持つバイクは、乗り手を選んでしまいます。初心者でも冒険できるバイクであるためには、出来るだけシンプルで、スリムで軽量で、足つき性が良いバイクがイイに決まっています。車体だってエンジンだって、冒険をサポートする必要最低限で十分なんです。だからREの「ヒマラヤ」は、アドベンチャーモデルでありながら、あのスタイルとパフォーマンスを採用したのです。

 

400ccを境に免許制度が変わってしまう日本の市場から見ると、排気量411ccという「ヒマラヤ」のエンジンは、なんて中途半端、と思ってしまいます。でもモトヒマラヤ・ツアーの最中にREのエンジニアから聞いた話では、REは伝統的に、ロングストロークと呼ばれるエンジン構造を採用していて、そのロングストロークエンジンの力強くて扱いやすい出力特性を大切にしているとのこと。そのロングストローク方程式を「ヒマラヤ」用のエンジンに用いると、排気量が411ccになる。それは410ccでも412ccでもなく、411ccじゃなければならないのだそうです。

 

その「ヒマラヤ」をツアー車両として使うこと、そしてこれまでの経験を活かして安全で、しかも感動的なツアールートを設定することによってモトヒマラヤ・ツアーを構成。同時に、メカニックや医師の帯同と言った、充実のサポート体制も組み込まれています。

 

標高が上がると、雲が近くなり、空の青さが色濃くなってきて、標高が上がったことを実感する。バイクを降りて歩くとすぐに息が上がる。

 

最初の5000m越えの峠の手前で小休止。心と身体を落ち着かせる。給水し、防寒インナーをしっかり着込む。十分な水分補給が高山病予防の基本だ。スタート地点の標高3500mでは汗ばむほどだったが、5000m近くなると気温もぐっと下がる。

 

最初の5000m越えの峠はカルドゥン・ラといった。滞在時間は15分。気圧も酸素密度も低いから体調への影響を考え、決して走らないようにと注意された。秘境をイメージしていたが、チャーターしたクルマでやってくる観光客も多かった。記念碑での記念撮影は順番待ちだ。

 

  • ツアーの様子

ツアー参加にあたって唯一気がかりだったのは、高山病とお腹の調子。ツアーの拠点となるインド北部の街/レーですら標高3500mにあり、そこからバイクで5000m越えの峠を4回行い(天候不良などによるルート変更で結果5回の5000m峠越えでしたが……)、ツアー中の宿泊地も4000m越えがほとんど。富士山はもちろん、山登りもしない自分は、そんな高地で自分自身がどうなってしまうのか想像が付かなかったし、インドで水が合わずに到着直後からずっと下痢したなんて話は、そこら中で聞くし…そこでネットで調べまくって高山病の予防薬を日本で手に入れ、それをお守り代わりにするくらいしか、出発前の僕にできることはなく、そのときの自分にはまったく自信がありませんでした。

 

昼食は、カレー味のインスタントラーメン/Maggie(マギー)に目玉焼きを入れたEgg Maggieが美味しかった。標高の高い場所でも、そこら中に犬がゴロゴロいた。日本人のジャーナリスト&ツアー参加者に加え、インドネシア、タイ、韓国のジャーナリストが、今回のツアーに参加した。

 

でも現地を走り始めると、その不安はすっ飛んで行ってしまいました。もちろん、キツイ帽子を被ったくらいの頭痛というか違和感はあったものの、運良く高山病の症状はなく、何を食べてもお腹の調子が変わることがなかったくらい体調が良かったことが、その不安を吹っ飛ばす要因でした。そしてなにより、美しいという言葉では言いあらわせないくらい美しい景色の連続で、それに見とれて、自分の体調なんて気にならなくなっていました。

 

空気や太陽という、普段の生活では強く意識することがない、でも我々人間が生きていくうえではなくてはならない存在が、標高が高くなり、空気が薄くなること、太陽からの距離が近くなることで、これほど自然や人間の活動に影響を及ぼすのかと、痛感したのでした。なにせ、バイクを乗り降りして、トイレや売店へと早足で移動するだけで、息はゼェゼェ、心臓はバクバクになりますから。またスマホの天気予報では23-25度と表示されているのに、直射日光下ではまさにジリジリと肌が焼かれる感覚。日焼け止めクリームの使用は必須で、体感気温は35度くらい。でも日陰に入るとヒンヤリと涼しく、極度に空気が乾燥しているので、ライディングジャケット下で大量にかく汗も、ベンチレーションから入る走行風ですぐに乾いてしまいます。ちょっと不思議な感覚です。

 

ツアー参加者は、ヘルメットとバイクに名前と番号が紐付いたゼッケンステッカーを貼る。思っていた以上に多いヒマラヤツーリングのバイクの中から、ツアー参加者を識別するためで、またトラブルが起こった場合、最後尾を走るサポートバンが参加者を見つけやすくするため。インド北部のお寺に飾られる5色の祈願旗「タルチョ」もツーリングライダーの定番アイテム。昼食のビリヤニ(炊き込みご飯)も美味かった。

 

簡易テントに泊まる。ベッドがあり、バスルームとトイレもある。お湯の出るシャワーは稀で、出ても19時からの30分だけだったり、濁ったお湯だったり……。水シャワーしか出ない所では、バケツ一杯のお湯が支給され、それに水を混ぜて使う沐浴スタイル。夕食は地元のスタッフが腕を振るってくれるインド料理。彼ら的には、野菜や鶏肉、羊肉を焼いたり煮たり……でも、様々なスパイスで味付けられたカレーだ。

 

本当に心強かったのは、ドクターが帯同してくれたこと。参加者の中には高山病になったり、おなかを壊したり、疲れのため体調を崩す人などがいたが、ドクターがしっかりと対応してくれた。

 

ツアーを最後尾から見守り、トラブルが出たバイクを直したりピックアップしたり、宿泊地に到着したらバイクの調子を確認したり、ライダーのリクエストに応え操作系を微調整したり……ツアーをサポートしてくれたメカニックにもお礼を言いたい。

 

  • 独特な景色を堪能

目に見える景色も違います。雲ひとつないドピーカンの青空は、青ではなく墨色がかった濃紺とも言うべき色。日本だと遠くに行けば行くほど霞が掛かって少しぼやけて見える山々は、手前も奥もエッジがクリア。ガードレールの無いコーナーの奥にそんな景色が広がっていると、道路の終わりと山の峰々との境が分からなくなるほど。ネットで調べれば標高に対する気圧や酸素密度の変化が分かると思いますが、標高5000mでは、気圧も空気も地上の半分くらいになってしまいます。したがって空気中に含まれる水分やチリも少なく、それがスーパークリアな景色を造り上げているのだと思います。

 

くわえて鉱石の影響で、ときおり赤や青の山々が出現したり、その脇を走る川もその鉱石の影響で赤みがかっていたり青みがかっていたり。そしてヒマラヤの山々に積もった雪は、夏は昼に溶けて流れ出し、それが貯まって巨大な湖を造り出しています。標高4000mを越える場所に、美しい湖が優々と横たわっていて、そこから溢れた水が大河となって麓に恵みをもたらす。そんな自然の循環を、とてもシンプルに感じることができます。

 

 

そしてあんなに力強く照りつけていた太陽が山に隠れて日が暮れると、気温は一気に下がり、さっきまでTシャツでも暑いくらいだったのに、ダウンジャケットがないと居られないほど寒くなる。太陽の偉大さを、これほど感じたことはありませんでした。

 

もちろん、バイクにとっても厳しい環境です。今回、約1週間でおおよそ1000kmを走った「Moto Himalaya」で使用した排気量411ccの空冷単気筒SOHCエンジンを搭載したREのアドベンチャーモデル「ヒマラヤ」は、日本で試乗すると、2〜3000回転もエンジンを回すと都内では十分に速く走ることができるし、4000回転も回せばかなり速い。しかし標高3500mのレーで走り始めると、その東京で試乗したときよりも使用するギアはひとつ下、エンジンも4000回転から上を常用。レッドゾーンの7000回転付近も頻繁に使用しました。そして標高が上がると6000回転以上を常用。5000m越えの峠を登るときは、ギアは2速、ヘアピンなどでは1速を使い、エンジンも目一杯回しながらの走行になります(もちろん、ノンビリ走ればそれほどエンジンを酷使しないと思いますが…)。でも「ヒマラヤ」は、そういった使い方を想定していて、何事もなく峠を登っていきます。今回20台近いグループでツーリングをしましたが、その1000kmの道中でパーツが緩んだり取れたり、水没からの復帰に時間を要したトラブルはあったもの、エンジントラブルは皆無でした。

 

多くのインド人ツーリングライダーたちに出会った。大荷物で旅していて、ゆっくりと峠を登っていく。インド版デコトラにも遭遇した。

 

またエンジンを高回転まで回し、スタンディングポジションで峠を越えているのは我々ツアー参加者だけで、インド人ツアラーたちはシートに座ったままゆっくりと峠を越えてきます。最初は、なんでスタンディングしないんだろう? スタンディングした方が膝で衝撃吸収できるからカラダも楽なのに…なんて思っていましたが、何日もスタンディングで走り続けると疲れてしまうし、延々と続く悪路の上から美しい景色を眺めながら走っていると、スタンディングでその場を足早に駆け抜けることに意味があるのかと考え始めちゃいました。ついには悪路を走りきる最低限の装備を持つ「ヒマラヤ」の潔さにドンドン心が惹かれていったのです。そしてその潔さは、ヒマラヤという偉大な自然に対するREのリスペクトなんじゃないか、なんて考えてしまうほど。まぁこんなふうに、目の前を流れていく景色を感じながら、いろんな方向に想像を膨らませ、思いを巡らせられるのもバイク旅の楽しいところですから。

 

帰国してしばらく経った今でも、ふとしたことがきっかけで、ヒマラヤで見た美しい山々、その麓に横たわる湖、そして街へと繋がる川の景色が脳裏に蘇ります。ヒマラヤに向かう前、きっと素晴らしい体験になるだろうと予想はしていましたが、これほどまでに心を引きつけられる、バイク人生最高の旅になるとは、予想もしていませんでした。

チャンスがあれば、またヒマラヤに行きたい。いまでも、そう思っています。

 

最後の5000m峠越えであるタグラン・ラで記念撮影。最後の夜のクロージングパーティでは、ツアーの完走証明書が手渡された。

 

制作・協力

■文:河野正士 ■写真:ロイヤルエンフィールド東京ショールーム ■取材協力:PCI 

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